肺がん、乳がんの高額治療を安くする方法
がん治療は、日進月歩で良くなる一方で医療費は高額になっている。治療費があまりに高いために、病院での治療を断念するがん患者が少なくないことも社会問題化しつつある。癌治療は実際に金額は高いのだが、患者が実質的に払う治療費は、事前情報よりもずっと少ない金額で済むことは体験するまで知らない人の方が多いだろう。実は、保険を始めとする各種制度の活用でなるべく医療費の実質負担額は、かなり低減できるのだ。「先立つモノ」として治療費の金銭を想像しがちだが、がん治療は情報が最優先されるべきだろう。正確かつ的確な情報さえあれば、高額の治療費を恐れて治療を抑制するような勘違いも回避できる。
以下に日本人でのがん発症数の多い「胃がん」「肺がん」「大腸がん」「乳がん」「肝臓がん」の一般的な治療を前提条件とした自己負担の治療費を記した。
なお、検証の前提となる保険は自己負担3割で、かつ「高額療養費制度」を利用している。
【乳がんの治療費】
最も自己負担の治療費が高くなるのは乳がん。乳がん診断後の5年後生存率が87.7 %と高いことが最大の理由だ。
乳がん利用に要する平均入院日数は11.8日。しかし、再発予防治療のホルモン療法が5~10年間も継続される必要があるため、長期間の治療が治療費を累積し多くしてしまう。
近年の乳がん手術の傾向は、切除範囲を可能な限り小さくする“温存手術”が主流。入院は手術時だけで、後の治療はすべて外来で行う。
しかし、切除範囲が大きい場合には、乳房の再建手術が非常に進歩している。人工乳房の再建に要する治療費は、100%自己負担ながら50万~100万円が必要となる。
乳がんは手術後に、再発予防のために放射線照射、抗がん剤治療を実施し、抗がん剤治療終了後からホルモン療法を5年間継続し検査を並行する。
乳がんに対して、早期発見で温存手術・術後再発予防抗がん剤・放射線療法を行った場合、 5年間の治療費合計は92万円となる。
【肺がんの治療費】
肺がんの治療費は、小細胞肺がんに対して、放射線化学療法を実施した場合で2年間に計45万円の自己負担が掛かる。
肺がんは平均入院日数21.7日で、進行が早いのが特徴であるために、肺がんと診断された後の5年後生存率は29%と低い。
肺がんは、発見時には既に手術が不可能なほどにがんが進行している患者が多く、放射線治療や抗がん剤治療が中心となるのだ。
肺がんへの標準的な治療法は、最初の20日間の入院期間中に放射線治療と抗がん剤治療を実施し、その後の3か月間で追加の抗がん剤治療と転移しやすい脳への予防的な放射線照射を行う。 2年目以降も検査は必須となる。
【胃がんの治療費】
胃がん診断後の5年後生存率は64.3%と高い。胃がんの平均入院日数は22.6日。早期の胃がんで発見されたなら、5年後生存率は90%を超えるている。
早期で発見の胃がんに対しては、がん患者の負担が重い開腹手術ではなく、負担の少ない内視鏡でがん粘膜を切り取るだけの手術が拡がり、日帰り手術さえも可能となっている。
胃がん内視鏡手術の負担が軽いのは、 4か所程度の小さな穴をお腹に開けて細い腹腔鏡を差し入れ、先端のメスでがん患部を切り取る開腹が早いのだ。手術費用は120万円と高額だが、高額療養費制度の適用で患者の実質負担額は9万円程度。
入院は10日程度、術後の検査費用(毎年3万円)を含めて、2年間での治療費の自己負担額は約14万円となる。
【肝臓がんの治療費】
肝臓がん治療費は、経皮的エタノール注入療法を前提とすると2年間で合計21万円。 3年目以降も6万円の検査費用が毎年に自己負担となる。
【大腸がんの治療費】
大腸がん、結腸がんの治療費は、切除手術・術後再発予防抗がん剤療法を行った前提なら、2年間で自己負担は42万円。
がんの治療費が高額化する一方で、患者の自己負担額が抑えられているのは、「高額療養費制度」のお陰だ。「高額療養費制度」は、治療費が数十万円から数百万円と高額になった場合でも、患者の自己負担額が月額一定に抑制される健康保険の制度。患者の自己負担額は収入と年齢で差があるが、月額2~8万円に軽減される。
高額療養費給付の問題は、患者が治療費の3割を一度支払い、後に還付されるため“立替金”が必要なことだ。実質が安くなると解かっていても、高額の一時払い金が治療への障壁となる場合も多い。
しかし、救済策として、支払額を最初から減額する「委任払制度」や「貸付制度」も増えてきた。「委任払制度」には病院承認が必要な場合や、貸付金額が保険機関で違う場合もあるので、がん治療に際しては、早期に病院の医療相談室等に相談することが必須だと言える。
がんは、治る病気だ。その前提で、万全の治療を施しつつ、治療費の負担を抑制し、予後の人生を益々汁実させるための備えを進める算段で臨みたい。