切らないがん治療 - 重量子線治療と凍結手術
重粒子線治療
通常の放射線がん治療に用いられるX線の電子よりも重い粒子を光の速さの70%まで加速してがん患部へ照射する治療法。 がん患部の病巣の形や深さに応じて調節しながら、がん細胞だけを狙って照射できる。まるで、メスのように治療できるのだ。
照射時間はわずか1 ~ 2分程度で終わる。それでも、がん細胞への治療効果は、通常のX線治療と比べて、2~3倍も強い。
旧来のX治療治療では広い範囲に放射線があたることが副作用を引き起こしたが、重粒子線治療はがん病巣に正確に照射されるので、通常の放射線治療よりも副作用が少なくできる。
治療効果としては、体内の奥にできたがんでも治療後1ヶ月でがんが消失できることもある。治療期間も半分なので体への負担は少ない。
全てのがんを治療できるわけでなく、がんの状態によっては治療できないこともあるが、前立腺がん, 子宮がん, すい臓がん, 大腸がんなどの多くの臓器がんには大変に強力な最新治療法である。
実際の治療での最大の問題は、約300万円といわれる治療費だ。しかし、「高額療養費の還付手続き」をすれば、費用の大半が還付返金される可能性が高いため、治療の効果が見込める場合にはあきらめずに受診するべきだ。
凍結手術
「凍結手術」とは、凍らせてがん細胞を死滅させる切らないがん治療法だ。 腎臓がん、肝臓がんに適用済みで、乳がんへの応用が検討されている。
実際の治療では、がん患部に局所麻酔を施した後にMRIで画像を確認しながら、直径1.5mmの特殊な針をがんへ刺す。 その後に針が接続した装置からアルゴンガスを送り込むと、針の先端がマイナス140℃の極低温になる。 すると針の周辺のがん細胞も急速に冷却され凍る。 細胞は凍ると細胞内の水分が膨張して細胞膜が壊されしまう。 これによって、一度凍ったがん細胞は全て死滅させられるのだ。
マイナス20℃に温度が下げられた部分の細胞は、がん細胞も正常細胞も全て凍結し壊死してしまう。
針を刺して凍らせる位置が極めて重要な治療手法なのだ。
治療時間は、急速冷凍(約10分)->解凍(約2分) ->急速冷凍(約10分)と約半時間で終了。
出血などの合併症がなければ翌日の退院が可能なほどにがん患者の負担は軽い。 従来の"切る"手術では抜糸まででも1週間、 退院までは2週間以上も必要であることに比べると、 凍結治療の患者のダメージは雲泥の差で小さいのだ。
腎臓がんが再発したがん患者の例では、右腎臓を全部摘出、左の腎臓も1/3を切除済みで手術が不可能とされていた患者でも凍結手術ならば治療が可能な適用例もあるのだ。
凍結手術中は局所麻酔した患部近辺が少し重い感じがするだけで、直後でも手術を受けた感じが無く、手術翌日には歩行が可能なほどに負担は少ない。
肝臓がんへの凍結手術適用は自由診療(保険適用無し)で実施されており、 今後は、乳がん、肺がん,子宮筋腫,骨腫瘍治療への応用が予定されている。
なお、凍結がん手術の治療費用は約53万円。 「4cm以下の腎臓がん」にだけは、保険適用されるので患者負担は比較的軽くなった。
手術が不可能とされた各種がん患者だけでなく、負担が軽く、費用も安い切らない凍結がん治療法は、さらなる発展展開が期待される。 凍結治療は,欧米では既に10年以上の臨床実績があるため、早期の保険承認が待たれる。